思い出を住みつなぐ
  昭和初期の家をリフォーム
杉山経子

 「昭和初期に建てられた住宅を、一度見てくださいませんか。思い出深い家なのでできれば住みたいのだけれど、私たちに住みこなせるかどうか分からないのです」。北陸の城下町に住むEさんから相談がありました。
 Eさんは四十代のイラストレーターで、公務員の夫と国道沿いのマンションで二人暮らし。幼いころから慕っていた叔母夫婦が亡くなり、住まいを譲り受けたそうです。
 叔母夫婦の住宅は、古い町並みが残る旧市街にあって、当時の雰囲気を残す木造二階建てでした。
 玄関脇には洋風の出窓。ふすまや障子の枠は漆塗りで、よく手入れされた柱や床板は、つやが出て光っていました。南北に続く日本間は、心地よい風が抜けます。Eさんは歴史ある住まいに魅力を感じる半面、便利なマンション暮らしをやめることに不安を感じていたようです。
 そこで外観や間取り、意匠といった建物の特徴を生かしつつ、住宅としての性能を上げるため、思い切った改修を提案しました。重視したのは、水回り、防寒対策、耐震補強の三点です。
 奥にあったトイレは玄関脇に移し、狭く暗かった台所や浴室は増築して面積を広げ、空間を一新しては、とお話ししました。これらの水回り部分は平屋建てだったので、増築や設備機器の配置変更も制限なく自由にできそうでした。
 古い木枠の窓は、すき間風を防ぐため内や外に二重に窓を取り付け、壁の内側に断熱材を補充。一階の部屋や台所には床暖房を入れ、防寒対策も施します。
 耐震診断で、引き戸が多く、建物の強度を保つ耐力壁が足りないことも判明。改修ではこの耐力壁を増やし、柱とはりなどを金具で固定する補強も盛り込みました。
 不安が解消されると分かったEさんは改修を決心し、この家に移り住みました。「ここでは季節の変化がよくわかり、以前よりも落ち着いて仕事ができます」とのこと。
 戦前に建てられた歴史的な建物は、古くて使いにくいと思われがちですが、既に残っていない材料や職人の技法を伝える貴重なもの。しかも、改修次第で住みやすい空間にすることができます。Eさんは、残された庭の手入れを楽しんでいるそうです。(杉山経子・建築史研究者、二級建築士)