実家の古材を新居に
  再利用で自分だけの空間
大平幸子

 「前橋市にある嫁さんの実家のかやぶきの家を壊すことになったので、一度見てもらえませんか?」。知り合いの知り合いである若いKさんから電話がありました。
 Kさんの妻の母は既に同じ敷地内に新しい家を建てて住んでおり、長らく誰も手入れをしなかったその家は「いつ壊されても覚悟はできております」とでも言うように、静かにたたずんでいました。
 ざっと調査してみると、基礎に近い部分は損傷が激しいものの、味わいのある材が数多く使われていました。
 Kさんの両親と一緒に住むための二世帯住宅を東京に建てたいと考えていた夫婦は「この家の木を新しい家に使うことはできませんか?」と尋ねてきました。「使えますとも。木材はとても優れた材料です。部分的な再利用なら、まだまだ活躍できる材はいっぱいありますよ」と答えました。
 私は解体に立ち会い、目当ての木材を職人さんに丁寧に取り外してもらい、物置に保管しました。妻の母は「こんな古い真っ黒な木が、新しい家に使えるんですか?」。すすだらけの木を「信じられない」という目で眺めていました。
 二年後、Kさん夫婦の念願のマイホームが完成しました。新しい家ですが、階段ホールの屋根の骨組みと、食堂の天井の化粧材として、古い木が姿を現したのです。
 家事の合間にふと見上げたとき、目に入る黒光りした化粧はりは、妻にとって自分の両親の分身ともいえます。かやぶきの家に置いてあった古いたんすも、玄関のげた箱として使えるようにしました。Kさんの親族が頻繁に出入りする大家族の中で、嫁として気丈に振る舞わなければならない妻の、心の安らぎになっているものと思います。
 古民家をそのまま移築するのは専門的技術も必要ですし、費用も多額になりますが、古材の再利用なら比較的手軽にできます。
 木という材料は年月がたっても、その強さや輝きが失われることはありません。古い家を壊すときは、すべてをごみにせず、使えそうな木材の再利用をお勧めします。ほかにはない、自分だけの思い入れのある空間ができて、ちょっとうれしくなりますよ。(大平幸子・二級建築士)