自分で手入れできるように
  材料限定の小さい家
越坂部幸子

 「家の手入れをプロに頼めるだけの経済的余裕はできそうにないから、極力自分でメンテナンスできる家にしておきたい」。わたし自身の終(つい)の住処(すみか)を設計した時の実情でした。
 おばあさんになっても自分で手入れできるように考えた対策の一番は、小さな家にすることです。面積はなるべく抑え、棟も軒も天井もできるだけ低くしました。
 雨どいはいらないと思ったのですが、物干しなどのため出入りの多い平屋側だけにつけました。そこは軒先を低くし、といに手が届きます。高い方にはといはつけず、雨だれ除(よ)けに宿根草を庭に植えて、はね返りが家にかかりにくくしました。
 外壁はモップで届くくらいの高さまでは板張りで、春と秋に雑巾(ぞうきん)でほこり落としをしています。上の方はしっくい塗りにして、ほったらかしです。外壁や窓回りの塗装を頼むと、足場を組むだけで二十万円ほどかかります。ですから、二階の窓は引き違いにして、中から腕を伸ばせば塗装できるようにしました。
 室内は天井の一番高い所でも、長柄ぼうきですす払いができる寸法にし、照明器具も電球を替えるのに踏み台なしで届く所につけました。
 建具は一人で動かせる大きさに。窓ふきや障子の張り替えなどをしやすいように、両手を広げて持てるサイズと重さにとどめました。
 メンテナンスを容易にするもう一つのポイントは、使う材料の種類を少なくすることです。材料を限定することで、手入れに必要な道具や塗料などの種類もまた少なくてすむのです。
 わが家では畳と風呂以外の床はすべて杉のむく板です。普段は小さな充電式掃除機でさっと掃除します。素足で歩いてざらつきを感じたら、雑巾がけをします。
 単純化し、少ない物で暮らす習慣をつけるのも大切です。片付けなくても気軽に手入れを始められる状態だと、住み手がまめにメンテナンスするように。息子はぶつぶつ文句を言いながらも、家の手入れを手伝ううちに、建物に愛着を感じているように思えます。
 ただ、どうしても手に負えないことがあれば、そのときは早めに本職に頼む方が安く上がることは知っておいてください。(越阪部幸子・一級建築士、イラストも)