家は通風を考えて
  日本では夏を旨とすべし
福井綾子

 有名な「徒然草」の一節で兼好法師が「夏を旨とすべし」と書いたように、日本の家はいかに夏の暑さをしのぐかが重要なテーマでした。
 そのためにこらされた工夫の一つが、通風です。間口の狭い家が軒を連ねる京都の町家のように、家の中に坪庭をつくり、夏は板戸を外して風通しのよい御簾(みす)障子に替えるなど、風情のある配慮がなされていました。通りに立てかけられたよしずは、見た目にも涼しげです。
 夏のある日、「社宅を出なければならなくなったので、思い切って土地を購入しました」というNさんが、家を新築するために相談にみえました。
 「布団が干せるバルコニーと、洗濯物をたたんだらすぐにしまえるたんすコーナーが、物干し近くにほしいです。忙しい毎日が楽になる!」
 保育園児をかかえ、自宅で編集の仕事をしているNさんは「締め切りに追われると布団も干せないし、洗濯物もたまってしまう。気になって仕事に集中できないときもある」とのこと。
 浴室に暖房を兼ねた乾燥機を設置することも可能でしたが、家の中に風の通り道をつくり、機械に頼らず、自然の力で風を取り入れ、排気することを提案しました。
 取り込み口は一階の玄関脇のコート掛け近くにつけた小さい地窓、出口としては家中で一番高いところにあるロフトに窓と換気扇を設置しました。
 さらに空気がよどまないように、ドアはできるだけ使わず、引き戸を多用。押し入れも湿気がこもらないよう、引き戸で両側から開閉できるようにしました。
 出かける際に換気扇のスイッチをいれておけば、留守のときも家中を風が動いてくれます。
 維持管理次第で、家は長持ちします。木造家屋は木が呼吸できる状態にしておくことが必要です。風が通れば、家を湿気から守り、建物にも住み手にもよいはずです。
 忙しい毎日でも、「仕事が一段落したら、階段のベンチで子どもと並んで、好きな本をいっしょに読んでいる時が一番ホッとします」。そんなNさんの言葉がうれしいです。(福井綾子・一級建築士、イラストも)