必要な物を見極める
  収納計画で大切なこと
田中洋子

 東京郊外にお住まいの五十代のご夫婦が、私の事務所に建て替えの相談にみえました。
 打ち合わせにご自宅に伺うと、食卓や低い家具の上に新聞、書類、郵便物などが平積みに。これでは収納を広くしても、すぐいっぱいになって、同じ状態になってしまうだろうと思いました。
 「工事が始まる前に仮住まいへ引っ越しますから、身軽にしておきたいですね。まず、今ある物と、とことん向き合ってみましょう」とアドバイスしました。夫いわく、「何を捨て、何を生かすかを考える作業か」。夫婦で、なぜ「いつか必要になるかも」と買い、「もったいないから」と捨てられないのかを考えてもらいました。
 最終的に「大切にしまっておいた物でも、今、使わなければ、いつ使うんだ。新しい住まいで心機一転だ!」(夫)、「物を捨てるのに、こんなにエネルギーを使うなんて。これからはスローライフで環境にもやさしい暮らしがしたいわ」(妻)との結論に。
 「収納を計画するとき、大切なのは『どう整理整頓するか』の前に『何が本当に自分に必要なのか見極めること』だと、気づいていただけましたよね」とお話しし、お持ちの家財道具の半分ほどを処分していただきました。
 その上で、これからの生活を存分に楽しめる設計を提案。陶芸が趣味で「自宅でろくろを回し、電気釜も置きたい」という妻の陶芸室と、キッチン、ダイニング、リビングを一階に配しました。陶芸室は、広くした玄関土間と一体化し、ギャラリー風に。棚に妻の自信作を並べ、夫の盆栽を置くなど、互いの趣味をグッと引き立て合えるようにしました。
 それぞれの物を使う場所に合わせて収納スペースを配置したのは言うまでもありませんが、一つ魔法のキャスター付き収納ボックスを大工さんに作ってもらいました。食卓の下に滑り込ませられる高さにしたので、どこへでも移動可能です。筆記用具、辞書、ティッシュ、雑誌の最新号、各自の書類用ファイルなどを入れられ、食卓の上はいつもスッキリ。
 「友人が遊びに来た時、このボックスがサイドテーブルに早変わりして大活躍した」(妻)そうです。

(田中洋子・一級建築士、イラストも)