価値高める耐震リフォーム
  生家の良さを再確認
小渡佳代子

 「親から受け継いだ築四十五年の家を、リフォームして使えるか、あるいは建て替えた方がよいか見ていただきたい」と相談を受けました。
 できれば大切に住み続けていきたいというAさんは、妻と子どもたちと暮らす核家族の団塊世代。その家には壁や基礎の亀裂、床の傾斜もなく、天井裏からのぞいても構造がしっかりしている住宅でした。
 しかし、簡易耐震診断をしたところ、評点は〇・五四、「倒壊の危険あり」でした。建築基準法は大地震が起きるたびに改正され、高い耐震強度を求められている現在の基準でみると、強度不足になっていたのです。
 一方で、Aさん宅は内装に隅々までむくの木を使っており、空間構成も粋です。寸分の狂いもない木製サッシは、最近の新築住宅に多い、木目のプリントが接着剤で張ってある既製の窓枠などとは比べものにならない丁寧な造りです。
 こんな住宅を新築で手に入れるととても高価になること、構造チェックした上で接合金物で補強し、現行基準にあわせれば、十分に住み続けられる価値のある住宅であることを説明。古くなって傷みが出ている水回りのリフォームを、耐震改修工事と同時に行うことにしました。
 横長の窓があると筋交いや構造用合板などを張った耐震壁が取りにくくなるので、いくつかの窓を縦長に配置し、耐震壁をバランスよく設け、評点を一・〇七に引き上げました。
 地震のたびにテレビ画像に映る被災地の映像から得た教訓から、収納はすべて地震を感知して扉がロックされる耐震ラッチを取り付け、倒壊の危険がある大谷石の塀は撤去。コンクリートと目透かしの板塀にしました。安全で風情ある趣は、近隣の人にも好評だったそうです。
 古美でモダンな住まいに家が再生され、生まれ育った自宅の価値を再認識した子世代と孫世代、幼なじみも集まり、新たな交流が生まれました。「リフォームでこの家のよさを再認識しました。思い出とともに大切にしたいですね」と喜ぶAさん。見た目の美しさを求めがちなリフォームですが、構造体が堅固な住宅は時の経過とともに成熟し味わいが出て資産価値を高めたという好例になったと思います。(小渡佳代子・一級建築士、イラストも)